転倒予防にオススメのピラティスチェアエクササイズ
今回は、転倒予防にオススメのピラティスチェアエクササイズを、生理学的な観点も交えながらご紹介いたします!
遅筋と速筋
転倒予防のためには、「バランスを大きく崩さないこと」と「バランスを崩しても姿勢を立て直せるか」ということが大切です。
後者のバランスを崩しても姿勢を立て直せるか、という能力について生理学的な観点から考えると、素早い動きに対応する速筋線維の働きが関わります。
筋肉には収縮の速度によってS型(slow twitch)と、F型(fast twitch)の筋線維が存在しています。
S型はslow=遅い
F型はfast=速い
という文字通り、ゆっくりと収縮するものがS型なので遅筋線維、素早く収縮するものがF型なので速筋線維です。
また、見た目の色の違いで、遅筋は赤く見えることから赤筋、速筋は白く見えるので白筋とも呼ばれます。
遅筋が赤く見えるのは、ミオグロビンという、ヘモグロビンが運んできた酸素を受け取り、筋肉の中に運び込む役割を持つタンパク質が多く含まれているためです。
さて、一回の筋収縮のことを単収縮といいますが、単収縮が繰り返されることで強縮状態となり、大きな力が発生します。
ただ、強縮によって筋収縮が続くと、疲労のために徐々に筋の張力は減弱していきます。
その程度は運動単位によって異なり、遅筋は疲労しにくく、速筋はすぐに疲労してしまいます。
遅筋の割合が多い筋は持久力に優れていると言われるのは、このような理由によるんですね。
転倒予防には速筋のトレーニングが重要
このように、速筋線維はすぐに疲労してしまうという特徴がありますが、速筋線維の方が運動神経線維が太いので、神経伝達が速く、発生する張力も大きくなります。
素早い動きや、大きな張力を必要とする動作では速筋線維が動員され、微細な動きや姿勢維持などでは遅筋線維が動員されます。
面白いことに、日常生活レベルの運動では遅筋線維が動員される割合が大きいので、速筋線維が使われなくなり、徐々に速筋線維が遅筋線維に置き換わっていくと考えれているんです。
速筋線維が減少すると、咄嗟の素早い動きに対応できなくなるので、バランスを崩した時の1歩2歩が出なくなり、転倒してしまいます。
「バランスを大きく崩して姿勢を立て直す」
ということが出来なくなってしまうんですね。
そのため、転倒予防のためには速筋線維を活性化することが非常に大切です。
そこでオススメのピラティスチェアエクササイズが、マウンテンクライマー。
ピラティスチェアを活用したマウンテンクライマー
マウンテンクライマーは、高強度で素早い動きが求められるエクササイズなので、速筋線維の活性化にはとてもオススメの種目です。
フロントリフトで身体を持ち上げた状態を保ちながら、ニーアップ動作を左右交互に繰り返します。
最初はゆっくりとした動作から始め、慣れてきたらスピードを上げることで、より速筋線維を刺激することができます。
具体的な筋肉としては、きゃっとばっくエクササイズを行いながらシートを強く押し、身体を浮かせていくので、腹筋群や前鋸筋を促通することができます。
また、腹筋群を収縮することで肋骨を内旋させて横隔膜のZOAを確保するだけではなく、相反抑制によって背部伸筋群の緊張を緩和する効果もあります。
胸郭を肩甲骨に近づけ、肩甲胸郭関節の安定性を高めるのにも効果的です。
速筋線維を活性化して転倒予防のためのトレーニングとしてだけではなく、姿勢の改善や肩関節の動きを良くする効果も期待できますね。
注意点としては、運動強度の高い種目なので、呼吸が止まらないようにすることや、シュラッグや肩関節の内旋による代償動作に気をつけて行いましょう。
フォームが安定しない場合は、きゃっとばっくニーアップや、フロントリフトで胸郭や肩関節の安定性を高めるようにしてみてください。
今回は、転倒予防に効果的なピラティスチェアエクササイズとして、マウンテンクライマーをご紹介いたしました。
素早い動きや強度の高い運動で速筋線維を活性化することは、転倒予防において大切です。
ただ、ある程度の年齢になってから素早い動きや大きな張力を必要とする強い刺激は、関節や循環器系など、身体への負担が大きいのでオススメできません。
そのため、若い年代から速筋線維を刺激するようなエクササイズを取り入れていくことが、長期的な視点でのコンディションニングを考えると重要ですね。
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理学療法士
中北貴之